都市倫理のアフター・パノプティコン [ 3/19 (Tsu) – 4/12 (Sat) ]


 

 

POOL SIDE GALLERYは、金沢21世紀美術館の外縁に位置する、2024年設立のコマーシャル・ギャラリーである。名称は、レアンドロ・エルリッヒの〈スイミング・プール〉をプールサイドから眺めるという、わずかな距離の意識に由来する。本ギャラリーは、美術館という制度的中心に正面から対峙するのではなく、その外側に立ちながら、視線の構造そのものを静かに反転させる場として構想された。

ここは、中心を観察しうる私的空間という意味で「民営のパノプティコン」と呼べるかもしれない。しかしその目的は統制ではない。制度が前提としてきた〈見る/見られる〉という関係の条件を、あらためて表に出すことである。鑑賞と監視、参与と距離、内と外。そのあいだに生じるわずかな緊張を引き受けながら、POOL SIDE GALLERYは境界面に立ち続ける。中心に近づくことは、対立の身振りではなく、可視性を媒介としたひとつの介入である。

本展「都市倫理のアフター・パノプティコン」は、監視社会という現実を前提としながら、そこにおける倫理の条件を問い直す試みである。鑑賞は一方向の行為ではない。作品を見つめる身体もまた、他者や環境の視線にひらかれている。双眼鏡やベンチといった装置は、その往還をあえて可視化するために設置される。普段は背景に退いている監視の構造を、ひとつの風景として立ち上げるためである。

ここで言う「アフター・パノプティコン」とは、近代的な監視モデルの単純な“その後”を意味しない。パノプティコンが前提としていたのは、中心に集約された視線と、不可視の監視主体であった。「見られているかもしれない」という不確実さが、主体に自己規律を内面化させる。その構図は長く社会を形づくってきた。

しかし今日、都市空間ではCCTVやスマートデバイス、SNSが常態化している。私たちは、見られていることを知りながら見る。観察することそのものが、どこかで観察されている。主体は監視者でも被監視者でもなく、「観察が公開される存在」へと変わりつつある。視線はもはや一方向の装置ではなく、循環するインフラのように都市を横断している。

この点において本展は、権力の流動化を論じたジグムント・バウマンの議論とは距離をとる。重要なのは、監視が拡散したという診断そのものではない。問題は、視線がどのような条件のもとで公開され、いかなる相互性を持ちうるかという問いである。アフター・パノプティコンとは、監視主体の不可視性を解体し、観察行為そのものを展示の対象へと引き寄せる試みである。不可視の権力を告発するのではなく、視線の構造をそのまま空間に差し出す。そこから、都市における倫理的な距離の取り方を再編する。

鑑賞の重なりは、見る/見られるという関係を揺らし、新たな公共性の輪郭を浮かび上がらせるだろう。本展は、制度の外縁から都市の言説空間へと静かに接続し、周縁にある視点を中心的な議論へと差し向ける。そのための、小さな回路をここにひらきたい。

 

佐藤栄祐 TAV GALLERY


開催概要

名称 : 都市倫理のアフター・パノプティコン
会期 : 2026年3月19日 (木) – 4月12日 (日)
会場 : POOL SIDE GALLERY( 〒920-0962 石川県金沢市広坂1丁目2−32 2F)[080-1231-1112]
時間 : 12:00 – 18:00
休廊 : 月、火、水

出展作家 : 小寺創太、小山渉、町田太一

企画:   TAV GALLERY

web : https://poolsidegallery.jp/posts/after_panopticon


 

小寺創太 / Sota Kodera

1996年東京都青梅市出身。2021年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。身体を時空間に展示するパフォーマンス/インスタレーション形式〈いる派〉を標榜する。最近の展示に『六本木アートナイト2024』(国立新美術館,2024)、『EASTEAST_TOKYO 2023』(科学技術館,2023)、『界面体』(CON_,2022)、『ストーンテープ~見たら呪われる展示~』(PARA, 2022)、『調教都市』(Token Art Center, 2022)などがある。

web : https://sotakodera.myportfolio.com/home

 

小山 渉 / Wataru Koyama

1992年東京都生まれ。映像表現を主軸に、感情、死生観、自明性や社会規範、精神病理など、社会と個人のあいだで揺れ動く人間の精神を探求している。近年は、友人を被写体に撮影するなかで立ち上がる私的な声や振る舞いに関心を寄せる。主な展覧会に「Life Rehearsals」(Inside-Out Art Museum、北京、2025)、「facetoface.controlnet」(LANLANLI & ONEPIECE GALLERY、厦門、2023)、「Snap out of it」(Art Center Ongoing、東京、2023)、「三菱商事アート・ゲート・プログラム2021-2022 支援アーティスト6組による新作展」(代官山ヒルサイドフォーラム、東京、2023)、「すみっこCRASH☆」(無人島プロダクション、東京、2022)。上映に「第7回バンコク実験映画祭」(One Bangkok Forum、タイ、2025)など。「Loop Barcelona Video Art Production Grant 2024」ショートリスト。

web : https://www.watarukoyama.com/

 

町田太一 / Taichi Machida

1992年生まれ、群馬県伊勢崎市出身の現代美術家。ゲームのイメージとセクシャリティの可能世界を描き出す作風で、幼い頃の触覚的な記憶や、ゲームや映画から着想を得た非現実的なイメージを巧みに表現する。社会生活における理想的な循環や、自身の分身を象ったミュータントたちの生活様式を、絵画、3Dプリンターを使って制作するマルチメディアなアーティストとして知られる。主な展示に「ジャンク・スポーツ」(ANOMALY, 2023)、「OK Warriors – Techniques for Existence」(TAV GALLERY, 2023)など。

web : https://taichimachida.com/index