中島晴矢 個展「ペネローペの境界」[ 6/26 (fry) – 7/12 (sun) ]
ポスト3.11を生きる気鋭のアーティストとして注目を集める中島晴矢の個展「ペネローペの境界」を、6月26日 (金) から7月12日 (日) (当初、7月5日 (日) までの予定でしたが、会期を延長することになりました。尚、7月9日 (木) は休廊となります) まで開催します。
中島晴矢は、映像、絵画、立体など、さまざまな手法により作品を制作する作家であり、通底するスタイルとしては、創作活動において極めてコンセプトを重視している点が挙げられます。
また、中島晴矢は、法政大学文学部で日本近代文学を学んだ傍ら、美学校出身、渋家創設メンバーであるという経歴が示す通り、これまで、主にオルタナティブな領域を活動の足場としてしてきましたが、昨年は、従来の活動の集大成ともいえる個展「ガチンコーニュータウン・プロレス・ヒップホップー」(ナオ ナカムラ) を開催し、これを経て開催した個展「上下・左右・いまここ」(原爆の図 丸木美術館) では美術館というこれまでとは異なる領域へと活動を拡げました。
さらに、展覧会のみならず、前衛演劇への参加や、ヒップホップユニット「Stag Beat」のMCといった現代美術の枠に収まらない横断的な活動は、『美術手帖』(2015年5月号) にて企画された若手作家特集「日本のアート、最前線!!」において、Chim↑Pomを率いる卯城竜太の誌上キュレーションに選出されるなど、オルタナティブな領域から起きつつある日本の現代美術の地殻変動を象徴する作家の一人として注目を集めています。
同特集内の中島晴矢の解説記事に付けられた「マッチョイズムと情けなさの応酬」というキャッチコピーは中島晴矢の作家性を端的に表していると言え、卯城竜太は、記事本文にて、中島晴矢について次のように評しています。
「マッチョイズムへの憧れと文化系キャラが見事に融合。(中略) マッチョなノリに対しての情けなさ、知性との絡みに妙に文学的な中毒性がある……サブカルからアート、文学まで幅広く文化をカバーする多面的な作家。」(『美術手帖』(2015年5月号)より)
同特集は、サブタイトルに「ポスト3.11を生きるアーティストは、美術を更新するか?」と付けられているように、一つは、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の体験を若手作家がどのようなかたちで昇華しているのか、もう一つは、マーケットを含むアートシーンとの関係をどのように捉えサヴァイブしているのか、という2つのポイントを背景として生まれた特集であると説明されています。
中島晴矢は、本展において、この背景となった2つのポイントへの回答を図らずとも示してると言えます。一つは、本展が、フクシマの問題やイスラム国の一連のテロリズムの問題を扱い、福島の被災地を訪問し収めた映像および写真を元にした作品、また、アリギエロ・ボエッティの《MAPPA》を下敷きにした国旗のシリーズなどを発表すること。もう一つは、前述の通り、中島晴矢が、所謂、大学機関においての正規の美術教育は受けておらず、オルタナティブな領域を起点としながらも、マーケットを含むアートシーンに対して直接的に促す動きへと軸足を移しつつあること。以上の点において、本展は、加速する日本のコンテンポラリー・アートの最前線にあると言え、日本の現代美術の風景を刷新する大きな可能性を有していると言えるでしょう。
また、本展は、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』に記された物語「ペネローペの織物」を、現代世界における「境界」の象徴として見立て、今の時代と対峙する芸術としての表現を試みることがコンセプトとしてあり、これについて、中島晴矢は本展ステートメントのなかで次のように語っています。
「現代は、無数のレヴェルで境界線が引かれ、ほどかれ、また引き直され……という永久運動にさらされています。その上で、様々に偏在する「ペネローペの境界」を、多元的に提示する——それが本個展のテーマです。」
本展開催にあたっては、前述の『美術手帖』において、卯城竜太と共に誌上キュレーションを務めた黒瀬陽平が中島晴矢の作家評を寄稿しており、テキストは会場にて公開されます。また、会期中の6月27日 (土) には、黒瀬陽平を招いたアーティスト・トーク「フクシマ・IS・普遍主義」を開催します。
TAV GALLERY STAFF
作家プロフィール
中島晴矢
現代美術家・ラッパー (Stag Beat)
1989年神奈川県生れ。法政大学文学部日本文学科卒業、美学校修了。
[主な個展]
「上下・左右・いまここ」(原爆の図 丸木美術館, 埼玉, 2014)
「ガチンコーニュータウン・プロレス・ヒップホップー」(ナオ ナカムラ, 東京, 2014)
「REACH MODERN」(ギャラリーアジト, 名古屋, 2012)
[主なグループ展]
「旅公演(どりふと)」(東京都美術館,2015)
「美學校ダウナーサイド」(Trans Arts Tokyo, 2013)
「東京BCN10443」(Olivart Art Gallery, バルセロナ, 2013)
「Labor,Party,NuclearーAfter Nuclear Family」(Trance Arts Tokyo, 2012)
「Village Project HOUSE100」(The Container)
[主なプロジェクト・イベント等]
演劇「アルトー24時++再び」出演 (東京芸術劇場, 2014)
クラブイベント「Nigger in Woods Vol.1」開催 (喫茶SMiLE)
演劇「アルトー24時」出演 (赤坂レッドシアター, 2011)
開催概要
名称 : 中島晴矢 個展「ペネローペの境界」
会期 : 2015年6月26日 (金) – 7月12日 (日)
会場 : TAV GALLERY (東京都杉並区阿佐谷北1-31-2) [03-3330-6881]
時間 : 11:00 – 20:00
休廊 : 7月9日 (木)
OPENING PARTY : 2015年6月26日 (金) 18:00 – 20:00
関連企画
□ 2015年6月27日 (土) 18:00 – 20:00
ARTIST TALK 「フクシマ・IS・普遍主義」 中島晴矢 × 黒瀬陽平 (カオス*ラウンジ)
司会 : 松下学 (TANAGallry Bookshelf)
一般 ¥700円 学生 ¥500円 (定員30名)
予約 : info@tavgallery.com
□ 2015年7月12日 (日) 18:00 – 20:00
「クロージング・パーティ with 映像上映会」
・上映予定作品
「Black Rain」(2011)
「Paper Fly」(2012)
「パケット・モンスター」(2012)
「バーリ・トゥード in ニュータウン」(2014)
「イマココ」(2014)
etc.
ステートメント
この展示は古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』(ホメロス)の物語を基底材としています。特に、夫であるオデュッセウスの帰郷を待ち続ける妻・ペネローペを主柱に据えました。
ペネローペは、トロイア戦争へ行ってしまった夫をイタケー島の城で待ち続けます。しかし、生死も定かでないオデュッセウスに代わって王の地位を奪おうと、周辺から無礼な求婚者たちが押し寄せてくる。そこで貞淑な彼女は、父のための織布を織り上げたら求婚者のうちの誰か一人と結婚すると宣言した上で、日中に生地を織り、夜中にそれをほどくという作業をくり返し続ける——これが「ペネローペの織物」というエピソードです。
この”織ってはほどかれるペネローペの織物”は、境界を引き、あるいはほどいて、絶えず境界線を刷新し続ける現代世界の象徴として機能しないでしょうか。
たとえば、フクシマの問題があります。4年前を境にニッポンの風景は一変しました。それは地震と津波という、大地と海の境界の侵犯によって起こされ、また原発事故による放射性物質の飛散は、人の住める区域と住めない区域の境界を、今でもなお生み出し続けています。
私は今年に入って、人々が震災を忘却しつつあるなか、初めて被災地を訪問しました。そこでは除染作業が進む代わりに、禍々しく黒い大量のフレコンバックが山のように積み上げられていた。果たしてこれを復興と呼べるのだろうか…? そんな疑問を抱えながら、富岡町を中心に五度に渡って福島を訪れました。そこで見聞きし、思考した事柄を、(非当事者性やスペクタクル化に躊躇しながらも)映像や写真に収め、作品にしています。
あるいは、国境という境界線もあります。それらは日々引かれ直され、拮抗し、ぶつかり合い、更新されている。地理的な境界のみならず、グローバル化を背景に、それは主義や宗教、メディアやインターネットを介した次元でもそうです。たとえば、展示をつくっている最中に起きた、シャルリ・エブド事件やイスラム国の一連のテロリズムをとってみても自明でしょう。ISによるカリフ制の宣言や、イラクからシリアにまたがる占拠地域は、西洋近代がつくった国境線や国家の枠組みの正統性を、明らかに問い質しています。つまり、ヨーロッパ近代が相対化され、民族や主義や宗派といった各々の普遍主義を掲げた闘争、テロや紛争が至る所で頻発している状況こそが、現代世界なのではないでしょうか。これらを踏まえて私は、アルテ・ポーヴェラの作家アリギエロ・ボエッティの《MAPPA》を下敷きに、国旗のシリーズを制作しました。
そもそも芸術とは、「ペネローペの織物」のようなものではないでしょうか。旧来の美を否定し、新しい美学を提示する、そしてそれもまたすぐに新しい価値によって刷新されるというダイナミズムこそが、アートの総体なのです。
斯様に現代は、多様なレヴェルで境界線が引かれ、ほどかれ、また引き直され…という永久運動にさらされています。その上で、様々に偏在する「ペネローペの境界」を、多元的に提示する——それが本個展のテーマです。
中島 晴矢