「 支配のためのプラクティス 」[ 3/14 (Fri) – 4/4 (Fri) ]


 

 

近代以降の国際社会において「支配」とは、必ずしも暴力的な征服や直接的な支配構造を指すものではなく、むしろ人間同士や国家間の目に見えない関係性の中で作用し続ける概念である。本展「支配のためのプラクティス」では、グローバルな視点を背景に、それぞれ異なる歴史、文化、技術に根差した3名のアーティストによる作品を通じ、支配というテーマを再定義し、その多層的な意味を問いかける試みを展開する。

建築や都市計画のバックグラウンドを持つトモトシは、都市空間を舞台とした映像作品を通じて「行為」と「支配」の曖昧な境界を探求する。本展では、白旗を掲げ街中を歩くだけのパフォーマンスを映像化した作品を出展する。白旗は降伏の象徴でありながら、人々がそれを認識することなく行進する様は、支配がいかに人々の日常や無意識の中に浸透しているかを暗示する。この作品は、現代社会における「見えない支配」を視覚化する試みである。

中国出身で日本を拠点に活動する馬嘉豪は、社会主義や未来主義のプロパガンダ表現を皮肉的に引用しながら、日本社会の構造的な矛盾や未来像を批評する。本展では、日本の若いカップルをモチーフにしたプロパガンダ風のポスター作品を出展。かつてのイデオロギーを想起させつつ、ポップな色彩と構図で再構成されたこれらのイメージは、国境や歴史を越えた視点から、支配の構造がいかに変容し続けるかを物語る。

テクノロジーと人新世をテーマにした作品で国際的に評価されるジアバオ・リーは、人間中心主義や気候変動を問い直す実験的なアプローチを追求する。本展では、海に浮かぶ氷上に「Thank you」と書かれたプラスチック袋を掲げる作品を出展。旗として機能するプラスチック袋は、人新世における象徴的な存在であり、領有権や支配を暗示する。同時に、それは環境破壊と消費社会への批判としても解釈される。

本展は、混沌化する国際社会における「支配」のあり方を探る実験的な場である。「旗」という共通の象徴を用いながら、それぞれのアーティストは、政治的・文化的・環境的文脈に根ざした独自のアプローチを展開する。支配は単なる国家間の力関係や政治性の表出ではなく、テクノロジーや資本主義、人間中心主義の視座からも多面的に解釈されるべきものである。本展が提示するのは、支配の構造そのものを批評し、新たな自由の定義を模索する試みである。「支配のためのプラクティス」は、国境や文化、歴史を越えたインターナショナルな視点から、現代における支配と自由の関係性を問い直す契機となるだろう。観る者にとって、この展覧会は単なる批評の場ではなく、私たち自身の生きる世界とその仕組みを再考するための実践の場でもある。当展はGAIEN NISHI ARTWEEKEND 2025に合わせて開催される。

 

佐藤栄祐  TAV GALLERY

 


開催概要

名称:支配のためのプラクティス
会期:2025年3月14日(金)- 4月4日(金)
会場:TAV GALLERY(東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布4F)[080-1231-1112]
時間:13:00 – 20:00
休廊:日、月
出展作家 : Jiabao li, トモトシ, 馬嘉豪

レセプションパーティ : 18:30 – 20:00

協力 : Gallery ETHER, Token Art Center

 


 

 

Jiabao Li  / 李 佳宝

ジアバオ・リーは、気候変動、種間の共創、人間に優しいテクノロジー、そして人間の知覚の交差点を探求するアーティスト、デザイナー、クリエイティブテクノロジストです。現在、テキサス大学オースティン校の助教授であり、Ecocentric Future Labの創設ディレクターを務めています。彼女の作品は、ウェアラブル、ロボティクス、拡張現実、パフォーマンス、科学実験、インスタレーションなど、さまざまな分野にわたります。彼女の作品は、Venice Architecture Biennale、MoMA、アルス・エレクトロニカ、エクスプロラトリウム、Today Art Museum Biennial、ミラノとドバイのデザインウィーク、ISEA、アンカレジ・ミュージアム、Museum of Designなど、国際的な会場で展示されてきました。また、Forbes China 30 Under 30、iFデザイン賞、Falling Walls、National Endowment for the Arts、STARTS Prize、Fast Company World Changing Ideas Award、Core77 Award、IDSA Award、A’ Design Award、Webby Award、カンヌのWorld Film Festival Award、Outstanding Instructor Awardなど、数々の賞を受賞しています。

さらに、彼女は健康テクノロジースタートアップEndless Healthの共同創設者兼チーフデザインオフィサーであり、AppleではApple Vision Proを含む未来の製品のための新技術の発明と探求を主導しました。また、ハーバード大学デザイン大学院でデザインテクノロジーの修士号を優秀な成績で取得し、優秀論文賞を受賞しています。

 

 

Photo by Ujin Matsuo

トモトシ / tomotosi

1983年山口県出身。大学を卒業後数年にわたって建築設計・都市計画に携わる。2014年より展覧会での発表を開始。「人の動きを変容させるアクション」をテーマに、主に映像作品を制作。また2020年よりトモ都市美術館を運営し、新しい都市の使い方を提案している。主な展覧会に、「tttv」(中央本線画廊、2018)、「あいちトリエンナーレ2019」(豊田市) 、「有酸素ナンパ」(埼玉県立近代美術館、2019)、「ミッシング・サン(芸術競技2021)」(代々木TOH、2021)、「絶望的遅延計画」(TAV GALLERY、2023)がある。 主な受賞に「WIRED CREATIVE HACK AWARD 2019」準グランプリ、「イメージフォーラム・フェスティバル2019」観客賞がある。

 

 

 

馬嘉豪 / Ma Jiahao

1996年生まれ。中華人民共和国西安出身。埼玉を拠点に活動。兵馬俑(へいばよう)を彷彿とさせる建築模型用の人体フィギアを圧縮させた彫刻作品を数多く発表。社会主義制度の問題を問う現代美術家の馬嘉豪(マ・ジャホウ)は異邦人として日本国のあり方を俯瞰的に読み解き、社会に生きる人々の共存の可能性を問い続けている。主な個展に「霾(PM2.5)」TAV GALLERY(東京)、二藤建人x馬嘉豪  2人展「HOLMGANG」など。主な受賞歴に第4回CAF賞入選、第22回岡本太郎現代芸術賞入選。