山本英 個展「すべては意識の中にある」[ 9/12 (Fri) – 10/4 (Sat) ]

この度、TAV GALLERYにて映画監督、アーティストの山本英(AKIRA YAMAMOTO)による初個展「すべては意識の中にある」を2025年9月12日から10月3日まで開催いたします。山本英は1991年生まれ、広島県出身の映画監督です。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域に進学後、黒沢清、諏訪敦彦に師事。自身の祖父と叔母の生活が入れ替わる短編SF映画『回転(サイクリング)』(2016年)がぴあフィルムフェスティバルに入選。その後、修了制作で発表された、倦怠期を迎えたカップルによる三泊四日の熱海旅行を描いたヴァカンス映画『小さな声で囁いて』(2018年)はマルセイユ国際映画祭に選出されフランス日刊紙リベラシオンに掲載されました。近年では、初の商業映画監督作として、俳優の橋本愛、仲野太賀を起用した『熱のあとに』(2023年)が全国で上映されるなど、飛躍的な活動を続けています。本展は、山本の活動を長年注視してきた筆者である佐藤栄祐の提案を受け、開催される運びとなりました。
山本英の作品は一貫して、情緒的な人間存在の機微を取りこぼすことなく画面に留め、自然物、創作物、無機物の残留思念とも呼べる“声”を拾い上げることに特徴があります。その映画の領域で設計されるコンセプトのみを語れば、実に凡庸なテーマ設定が多く、例えば映画『回転(サイクリング)』(2016年)では祖父と叔母の頭がぶつかり心と体が入れ替わるものの何も起きず、ヴァカンス映画『小さな声で囁いて』(2018年)では倦怠期を迎えたカップルが三泊四日の熱海旅行に出かけるものの、何かが起きる気配もありません。澤田政廣の公共彫刻を360度の角度から撮影したシーンや、登場する平凡な男の決して上手いとは言えないカラオケを一曲分(約5分)まるごと聞かされる場面もあります。一見すると映画館という拘束性に甘えた表現のようでありながら、それらは整合性をもって私たちが見落としていた、あるいは知覚できなかったものの存在を表出させていきます。
山本が影響を受けた作家の中に、ベルギー出身の映画監督シャンタル・アケルマンやポルトガル出身の映画監督マノエルド・オリヴェイラがあり、いずれも興行的に不利とされアート作品に近づくとされるロングテイク(長回し)を多用し、映画を純粋な表現形態として作り変えようとした表現者です。山本の作品はアケルマンなどの系譜を引きつつ、静謐で内省的な作品を生み出すアーティストであると同時に、主体と客体、創造物と創作者の視点を逆転させながら、本展では映像製作における「カメラを持つことの加害性」についても向き合います。
今回、初めて現代美術に挑戦する山本が着目したテーマは映画史における「ゾンビ」の存在です。ゾンビの起源は17世紀の西アフリカ・ハイチの民間信仰にあった「呪術によって魂を失った人間が操られる」という伝承に遡り、19世紀に西洋文化への伝播が起きると「人間社会の不安や制御の損失を象徴する文化的存在」として定着し、その後多くのフィクション映画がそのイメージを形成し現在に至ります。フィクショナルな存在に加害性を担わせることで私たちは何を手放してきたのか。山本は「フィクションの中にだけ存在し、多くの映画で消費されてきたゾンビは今、最も安全な存在とも言える」と語ります。
展示タイトル「すべては意識の中にある」は、フッサールが提唱する現象学から着想を得た──客観的な実存性に抗い、数々の自然物や無機物の記憶や機微を画面に攫ってきた山本の必然的な選択でした。展示タイトルが付されたメインの映像作品では、失われた「椅子」を探してショッピングモールを徘徊するゾンビの姿が展開され、椅子は架空の創造物としてのゾンビと創作者である人間の位置を入れ替えるためのメタファーとして、映像と実際の空間内に現れます。
近年、美術の中心とは何かという命題に基づき、地方ショッピングモールから派生する世代論や、モール化するアートフェアの問題、美術家・梅津洋一が主宰するパープルームギャラリーが海老名のダイエーにテナントを出展するなど「モール」に関する議論が想起される中で、山本英は「ショッピングモールといえばゾンビ映画の定番である」と、無意識に介入を試みました。
映画が生み出した文化的存在としてのゾンビのイメージを映画というジャンルから逸脱させ、解放するオルタナティブな試みを通した映画監督、アーティストの山本英による初個展「すべては意識の中にある」にぜひご注目ください。
佐藤栄祐
開催概要
名称 : 山本英個展「すべては意識の中にある」
会期 : 2025年9月12日 (金) – 10月4日 (土)
会場 : TAV GALLERY(東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布4F)[080-1231-1112]
時間 : 13:00 – 19:00
休廊 : 日、月
企画 : 佐藤栄祐
出演 : 山崎陽平
撮影 : 白岩大志、山本英
特殊メイク : まーしー深山
協力 : Nid/有限会社ラ・ピエール・ブランシュ
レセプションパーティ:2025年9月19日(金) 18:00-20:00
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関連イベント
中島晴矢 × 山本英 対談
「徘徊する・しない・できない」
9月23日 (火) 19:00 – 20:30
料金:一般 1,000円/U25 無料
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中島晴矢(なかじま・はるや)
アーティスト。1989 年神奈川県生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業、美学校修了。2019年より美学校「現代アートの勝手口」講師、プロジェクトチーム「野ざらし」共同ディレクター。近代文学・サブカルチャー・都市論などを補助線に、現代美術・文筆・ラップといった領域横断的な活動を展開。ユーモアとアイロニーを散りばめたアクチュアルかつ批評的な表現をミクストメディアで実践している。主な個展に「ゆーとぴあ」(WHITEHOUSE/2025)、「東京を鼻から吸って踊れ」(gallery αM/2020)、「バーリ・トゥード in ニュータウン」(TAV GALLERY/2019)、グループ展に「MEET YOUR ART FAIR」(寺田倉庫/2023)、「ART FAIR TOKYO」(東京国際フォーラム/2021)、「TOKYO2021 美術展」(TODA BUILDING/2019)、キュレーションに「SURVIBIA!!」(NEWTOWN, 2018)、アルバムに「From Insect Cage」(Stag Beat, 2016)、著書に『オイル・オン・タウンスケープ』(論創社/2022)、掲載図録に『TOKYO 2021』(青幻社/2021)、『東京計画2019』(武蔵野美術大学出版局/2020)など。
作家プロフィール
山本英 Akira Yamamoto
1991年、広島生まれ
2015年、東京造形大学デザイン学科映画専攻卒業
2018年、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了
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2023年「熱のあとに」
第28回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門正式出品
第60回台北金馬奨映画祭正式出品
第24回東京FILMEXコンペティション部門正式出品
第14回北京国際映画祭ForwardFuture部門正式出品
2021年「あの日、この日、その日」
第22回東京フィルメックス メイド・イン・ジャパン部門正式出品
2018年「小さな声で囁いて」
第29回マルセイユ国際映画祭(フランス)初長編部門正式出品
第20回全州国際映画祭(韓国)World Cinema Scape正式出品
第40回ぴあフィルムフェスティバル正式出品
ロサンゼルス国際交流基金2019上映
2017年「グッド・アフタヌーン」
ブリィブ国際中編映画祭2018コンペティション部門(フランス)正式出品
コテ・クール映画祭2018 Focus Japan(フランス) 招待上映
なら国際映画祭2018Nara-Wave正式出品
広島国際映画祭2018コンペティション部門正式出品
2016年「回転(サイクリング)」
Image Forum ヤングパースペクティブ2016 招待上映
ぴあフィルムフェスティバル2016 正式出品
Fresh Wave International Film Festival 2017 招待上映(⾹港)



