鈴木操 個展「fortunes」[ 8/25 (Fri) – 9/10 (Sun) ]
鈴木操は、2015 年のTAVGALLERYにおける初個展「記憶喪失の石灰」以来、漆喰を素材とした作品を発表し続けてきた。石灰と書いて「せっかい」と読むのは漢音で、これを唐音 では「しっくい」のように読んだらしく、漆喰という表記は、その当て字だという。調湿性をもち、環境条件に応じて水分を吸収したり放出したりする漆喰は「呼吸する」と言われ、その原料である煆焼した石灰岩が「生石灰」とも呼ばれるように、石灰ないし漆喰という材質は「生命」と結びつけられてきた。
2016年に「私戦と風景」(原爆の図丸木美術館)で発表した《夜よりも長い蛭の群れ》という作品のタイトルに表れているように、鈴木は、柔らかく不定形な漆喰による造形を蛭という無脊椎動物に喩える。得体の知れない何かが湧いてくるような気味の悪い感覚は、石灰の調査で鍾乳洞を巡りながらアーティスト自身が体感してきた感覚なのかもしれないし、あるいは石灰という堆積岩それ自体がもつ生物学的あるいは地質学的な記憶なのかもしれない。
石灰の「生」にまつわる時間は、私たちの人生に即した時間の感覚と全く異質だが、漆喰と いう素材と向き合うことは、手という肉体の端末を通じて自分自身を見つめなおすことでもあったはずだ。たとえば、私たちの体内に共生している常在菌などの微生物、あるいは神経系や免疫系、循環器や消化器といった自らの肉体を成り立たせているシステム、ひいては遺伝や輪廻転生といった個人の「生」を超越した法則との関係から自己を捉えなおすとき、 個々の存在がもつ属性は、他者としての世界に開かれた運勢的な様相を呈する。
鈴木は、ユニセックスブランド BALMUNG と 2021年の秋冬、2022 年の春夏シーズンでコラボレーションを行うなど、ファッションと彫刻という分野を跨いだ制作も続けてきた。両者の共通項として思い浮かぶのは「身体」だが、歴史的に見れば、いずれにおいても想定されていたのは抽象的ないし理想的な人体であり、具体的な個人の身体は蔑ろにされてきた。アカデミックな彫刻の方法論が、西洋伝来の人体を前提とした造形論(アンソロポモルフィズム)の一環であるとすれば、伝統的に用いられてきた心棒や棕櫚縄は、脊椎動物の骨格のようである。また、従来の身体性を覆すような優れたファッションデザインが「身体的」と いうよりも「彫刻的」な実践であるとすれば、鈴木の制作は、「身体的」でも「彫刻的」で もない不連続な位相に見出される、流動的な実存の表現に関わっていると言える。
今回の個展では、漆喰と風船を使った《Deorganic Indication》シリーズを中心に、蛭というモチーフを作り手の象徴である手と重ねた新作の写真シリーズ《分裂する蛭、私の手》もあわせて発表する。実存的なリアリティの表現に、いつか割れるかもしれない偶然性という外的な要因をとりこんだ作品は、私たちが立っているこの大地という巨大な体系に孤独な存在が接続する可能性を提示している。
飯盛希
開催概要
名称:fortunes
会期:2023年8月25日(金)- 9月10日(日)
会場:TAV GALLERY(東京都港区西麻布2-7-5 ハウス西麻布4F)[080-1231-1112]
時間:13:00 – 20:00
休廊:月、火
協力:モースト・リスキー合同会社
レセプションパーティ:2022年8月25日(金)19:00 – 21:00
鈴木 操 Sou Suzuki
1986年 東京生まれ
2007年 文化服装学院卒業
主な展示
2022年 「日比谷OKUROJIアートフェア2022」(日比谷OKUROJI)
2021年 「3331 ART FAIR 2021」(3331 Arts Chiyoda)
2021年 「BALMUNG 2021 A/W collection “N//O//T”」(Rakuten Fashion Week TOKYO)
2020年 「the attitude of post-industrial garments」(MITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERY)
2019年 「彫刻書記展」(四谷未確認スタジオ)
2018年 個展「open the door,」(roomF準備室)
2017年 「自営と共在」(BARRAK1)
2016年 「私戦と風景」(原爆の図丸木美術館)
2015年 個展「記憶喪失の石灰 – Amnesia Lime -」(TAV GALLERY)